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首に縄がかけられる。誰かが聖書を読んでいる。やっとこの時が来
た。自らの身をもってして死というものを味わう瞬間が。あまりの嬉し
さに声を漏らさずにはいられなかった。気づいたときには声をあげて
笑っていた。”早く!!早くしてくれ!!私は死の味を確かめるの
だ!!”勝手にそう叫んでいた。
違う。私は死にたくなどない。人を殺したくなどない。
”さぁ早く私を殺してくれ!!さぁ!!はやく!!”
違う違う違う。死にたくなどない。黙れ。
しかし、私の中の何かが、大きな存在の何かが、私の心を完全に支配し
ている。もはや本当に死にたくないのかどうかさえ、もうろうとした意
識のはるか彼方に飛び去った。
足場が開いた。私の体は下に勢い良く落下し、首にくくり付けられてい
た縄がきつくしまる。自分の心の中の、もう一つの何かが私にそっと語
りかける。
”忠誠は最後まで突き通すものよ。さぁ、私の元へいらっしゃい”
私は「死」の味を覚えた。
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