~人は味を覚えれば繰り返す~

6/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 首に縄がかけられる。誰かが聖書を読んでいる。やっとこの時が来 た。自らの身をもってして死というものを味わう瞬間が。あまりの嬉し さに声を漏らさずにはいられなかった。気づいたときには声をあげて 笑っていた。”早く!!早くしてくれ!!私は死の味を確かめるの だ!!”勝手にそう叫んでいた。  違う。私は死にたくなどない。人を殺したくなどない。 ”さぁ早く私を殺してくれ!!さぁ!!はやく!!” 違う違う違う。死にたくなどない。黙れ。 しかし、私の中の何かが、大きな存在の何かが、私の心を完全に支配し ている。もはや本当に死にたくないのかどうかさえ、もうろうとした意 識のはるか彼方に飛び去った。 足場が開いた。私の体は下に勢い良く落下し、首にくくり付けられてい た縄がきつくしまる。自分の心の中の、もう一つの何かが私にそっと語 りかける。 ”忠誠は最後まで突き通すものよ。さぁ、私の元へいらっしゃい”  私は「死」の味を覚えた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!