村瀬絵里

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       ☆  昼前の会社はまるで波の様で、忙しさが引き、午後の仕事の波が押し寄せるまで静であった。  そんな静かな会社で、僕は悠々とコピーを取ったBG原図(原画マンが描いた背景の素)を自分のデスクで色鉛筆を使って色分け(セルは暖色系、BG Bookは寒色系で塗り、美術監督によって異なるが、生原図を美術監督に渡し、コピーの方を原画マンに返すのだ)をしながら村瀬さんと赤松さんと広報部の戸牧さん、経理の和泉さん達の女子高生みたいなノリの女の会話を聞いていた。 「絵里ちゃんって可愛い服着てるよね」  経理の和泉さんが可愛いと言う村瀬さんの服は、黒のヒラヒラした、ゴシック&ロリーターファッションのサマードレスだった。 「でもハニーさんはこの格好だと絶対一緒に歩いてくれ無いんですよ」  彼女は口を尖らせてぼやく。何故村瀬さんの彼は嫌がるのか? 僕には不思議で堪らず、考えるよりも言葉が先に零れ出ていたのだ。 「自分は一緒に歩けるけど」  驚いた表情で皆の視線が一斉に僕に集まった。まるで珍獣を見る様な目。 「彼女に似合っているなら何着ても良いと思うし、彼女が気に入っているなら良いんじゃないんですか」
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