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「どうする」
僕は薄れ行く意識の中で決断を迫られていた。助けを呼ぶか、このまま彼女の村瀬絵里と一緒に来世を生きるかの決断を。
視界が歪み、世界が気持ち悪く回る。どうやら僕の命の火が消えようとしている。小柄の絵里は僕より後に同量の睡眠導入剤の入った赤ワインを飲み干したけど、体格の差から既に意識を失い掛けている。
「どうする… このままだと本当に二人とも死んでしまう」
僕の右手には119番のボタンを押したまま発信出来ず、そのまま放置されたケータイのディスプレイが省エネモードに切り替わり、静かに主人の命令を黙って待っていた。
大分前から死ぬ覚悟は出来ていたはず。しかしそれなのに、どうしてこんなに悩むのだろう。今日、三月八日に絵里とこの現世から魂を解き放ち、旅立つことを約束していたのに。どうして…
朦朧とする意識が僕の判断を鈍くする。幾ら考えても思考は前頭葉の深部には到達せず、白く靄が掛かった世界を浮遊しては消えるだけであった。
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