ボイス

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       ★  暑い八月最終の日曜日。この日は僕が制作進行をしている大作の二回目のアフレコ日だった。この作品の敵役が、世間の女性のハートを射抜いている二枚目大物ロックミュージシャンのJinだった為、一回目のアフレコにスケジュールが合わなく、抜き撮りと言う形になっていた。  アフレコスタジオは青山にあり、今まで僕が見たスタジオの中で一番でかく、お洒落な佇まいに驚かされ、改めてこの作品の大きさを身に感じたのだ。  自動ドアを潜り抜け、壁に張られた映画のポスターの脇にある今日のスタジオの予定表を見る。僕の作品は二階の一番手前の部屋で行われるみたいだ。  階段を登り一番手前の部屋の重々しい扉を開くと、正面と左に扉があった。左側の扉を開けて覗くと、そこは声優達が声を当てるレコーディングブースだった。僕は扉を閉め、正面の扉に向かった。  このスタジオは芸能ニュースで見たことある。芸能人がアフレコをしている場面だ。まさか同じ場所にスタッフとして立つとは思いもしなかった。僕はスタッフが準備する中、ポッーンと一人、ソファーに座ってアフレコが始まるのを待った。  しかし本当に暇だ。制作進行はアフレコの場面に置いて特にやる事は無いのだ。監督や演出から出たリテークをメモり、アフレコが終わった後に各担当の人の所にリテークを持って行き直して貰うだけなのだ。声優好きの制作進行以外にとって、アフレコ現場は暇な場所である。一回目の声当てでは、こんな風に声が付くのかと感動するのだが、同じ作業を一日に何度も繰り返すのを見ていると、次第に飽きてしまい、寝てしまう制作も居る位だ。
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