夏の終わり

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       ★  時刻は正午を少し回ったところだ。僕が制作をしていた大作がやっと完成し、五反田に在るビデオメーカに、完パケしたベーカムと納品書を届け、会社に戻る途中であった。  今日も暑い。まだ正午だと言うのに太陽の陽射しが容赦なく僕の体力を奪う。後でコンビニでも寄って、冷たい物でも買ってから帰ろう。  僕がそんな事を考えていると、電車が悲鳴を上げながら新宿駅のホームに入ってきたのだ。  中央線の下りの電車に乗り込むと、時間が時間なため車内はガラ空きだった。だけど僕は席に座らないで立ったまま戻ることにした。  僕は電車内では寝れない人間である。どうしても降りる駅が気になって、寝過ごさないよう気を張り詰めてしまうのだ。しかし、だからと言って起きているのも暇だ。少しでも暇潰しになればと思い、中吊広告の内容を読み始めたのだ。  この業界に入ってからの情報源はもっぱら車のラジオだ。その為、芸能ニュースやゴシップに記事に疎くなっていた。  そんな情報に疎くなっていた僕は真実か虚構なのかも分からない記事に目をやる。どうやら人気歌手アイドルが大物俳優と不倫をしているらしい。また巷の奥様方は、韓国の俳優に熱中らしいのだ。ついこの間までは、北朝鮮問題やアメリカとイラクの戦争で日本もテロの危険などに敏感に反応をしていたはずなのに、今ではこんなどうでも良い記事が載るぐらい日本人の感覚は平和ボケの最中らしい。
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