夏の終わり

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 もし僕が辞めたら何か変わるのか? 大きな損失となって痛手を被る事になるのか… いやっ、多分会社の中の時間は今とは変わらず淡々の過ぎて行くのだろう。もし何か変化が有るとしたら村瀬さんぐらいだろう。  以前村瀬さんと会話をしていた時、「塚本さんが辞めたら泣いちゃいます。寂しいです」って言ってくれたのだ。僕はその時、言葉を濁しながら彼女を宥めたが、きっと彼女なりの社交辞令だったのかも知れない。でも彼女の言葉は嬉しかった。少なくとも「僕は必要とされている」と思わせてくれたのだから。  村瀬さん、キミは本当に泣いてくれるのかい。キミが泣いてくれたならきっとその涙は僕がここに居た存在証明になる。  僕はそんな頭の中の独り言を自分のデスクで聞きながら時間が淡々と過ぎるのを待った。  暫くすると会議室前の通路が賑やいで来る。僕はデスクチェアーを反転し、視線を向けると、戸牧さんと村瀬さんがゴミ出しの準備をする所だった。  そう言えば今日はゴミの日だ。何もやる事無く、ボケーと時間が過ぎるのを待つのもアホらしいし、この溜まりに溜まったゴミの山を仕分けするのが大変そうだったので僕は戸牧さんの側に駆け寄り手伝いをする事にしたのだ。
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