走馬灯

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『あたしは絶対や永遠なんて信じない』  こんな不確かな希望に美しく輝く未来は本当に有るのだろうか。僕は誰も覚えていない、輪廻転生と言う夢語りに縋ろうとしている。本当に僕達に幸せが待っているのだろうか。そんな不確かな未来を見詰めていると、僕の背筋を凍て付かせる言葉を思い出させたのだ。 『因果応報』  確か仏教で言う輪廻転生は、前世の悪かった行いをやり直し、徳を積む為の試練だったはず。でも僕達はその試練を投げだし、命を絶とうとしている。もしかしたら僕達には未来なんて存在しないのかもしれない。それでも僕は絵里との来世に望みを賭けるのか。  もうダメだ。何も考えられない。絵里の顔も殆ど見えなくなってきた。急速に暗闇が侵食して来る。どうやら死が僕を迎えに来たよだ。絵里、僕も直ぐそっちに行くよ。待っていてくれ。  僕は今出せる最大の力で絵里を抱きしめ、現世で最後のキスをしたのだ。愛で溢れた熱いキスを。  絵里から唇を離すと急に全身の力が抜け、その場に物凄い勢いで倒れた。  痛みは感じなかった。これが本当の最後の様だ。僕は瞳を閉じ、闇の向こうに召されるのを静かに待った。  魂の鼓動すら聞こえない静寂に包まれた世界。もう既に僕の瞳には何も映らないけど、窓の外には色鮮やかな神戸の夜景が、ステンドグラスの様に煌びやかに輝いているはず。僕には、この空間が厳かなゴシック建築の教会の様に感じたのだ。  だけど、僕達の魂を呼び止めるものが突然現れた。それは場違いな音楽で、この厳かな世界を激しく切り裂いたのだ。  どうやら主人の命令を聞かずにシルバーのケータイが動いたようだ……
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