事件は突然に

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 本当に一瞬だ。タイムシートに書くなら18コマ(0.625秒)も無い。でも僕にはその18コマの光景が144コマ(6秒)も有るスローモーションかの様に映り、1コマも抜ける事なく鮮明に脳にダイレクトに焼き付かれたのだ。  スローモーションの世界から解放された僕は、慌てて自分のデスクにアップした原画を置き、彼女を追って外に出たのだ。  しかし外に出たのは良いが、彼女の行く宛てなど僕が知る筈も無かった。でも賭けとして思い当たる節が一つ有った。その賭けの対象は屋上だ。以前彼女と屋上に行った時の話を思い出したのだ。僕の頭は一気に固定概念のループに縛られ、屋上しか思い浮かぶ事が無くなっていた。  僕は何の疑いも無く、屋上まで一気に駆け昇り、屋上の白い扉を開くと少し冷たい風が差し込む。僕は軽く身震いをしてから、屋上の外に出でた。 「居ない…」  こんな狭いビルの屋上だ、物の影を探さなくったて一目で人が居ない事ぐらい分かる。それが暗くってもだ。 「居ないか… ミスった。下に行けば良かった。タイムロスだ」  僕は舌打ちをしてから踵を返し、ビルの階段を3段飛ばしで駆け下り、宛ても無く会社周辺を探す事にした。
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