事件は突然に

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 村瀬さんは何処に行ったのだろう。村瀬さんが出てから僕が下に降りて探し始めるまで、3分も経ってないはずだ。でも村瀬さんの姿が見当たらない。この近辺に公園は無いし、有っても入社したての村瀬さんが知っているはずも無い。何処を探せば良いんだ? こうなって見てやっと分かる。村瀬さんの事が気になっていても、僕は村瀬さんの事を何一つ知らないんだ。何だか笑えてくる、自分のお気楽でアホさ加減に。  何を期待してるんだ。ドラマ見たく都合良く見つけ出し、泣いている彼女を抱きしめる。そして彼女は彼の優しさに触れ、彼が大切な人だと気付く…  こんな風に上手く話が展開するはずが無い。現実はこんなもんさ。これがリアルな世界のドラマだ。  僕は自嘲気味に小さく笑いながら中央線の高架下を潜り、来た道を引き返した。  会社が入っているビルの前に着くと、手ぶらで社内に戻るのが気不味かった。僕はアリバイを作る為、煌々と光る自販機の誘惑にあえて乗り、ボスのブラックを買ってから社内に戻る事にしたのだ。  僕はアリバイをアピールするかのように持って社内に入ったのだが、このアリバイ工作も虚しい結果となって終わったのだ。何故なら僕の数秒後に村瀬さんが平然とした表情で戻って来たのだから。
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