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後から制作部の乙女三人組から話しを聞いて知ったのだが、村瀬さんが泣いていた理由は仲良かった安達さんが急に解雇になった事への驚きと悲しみが、以前大切な人に何も言われず姿を消された事がオーバーラップしたらしい。
しかし人を良く思わない人間も居るもんだ。制作部の一部の人間が村瀬さんの涙は嘘泣きだと囁いたのだ。事件現場に居なかった僕がどうこう言えた身分では無いが、僕は彼女の流した涙は真実だったと思う。どうしても彼女が涙を流しながら出ていった時の表情が頭から離れないのだ。
このまま村瀬さんの涙と僕のコメディーで強引に締め括られて終わってくれたらどれだけ楽だったか。事件は続いたのだ。
この安達さん解雇事件を期に、村瀬さんと制作部の人間関係を結ぶ歯車が大きくズレだしたのだ。きっかけは制作部の人間批判である。村瀬さんは人間批判がよほど嫌いらしく、無骨に表情に出した為、制作部との溝が広がるのが目に見えるように分かったのだ。
僕は制作部と村瀬さんの溝を埋めようと、一生懸命制作部の人間にフォローして回ったのだが、努力は虚しく空回りで、努力すればする程僕もその渦中の人物になり、何だか制作部を敵に回した様な気にさせたのだ。
でも日が経つ事にこの問題は風化していった。よく「時間が解決する」と言う。でもこの事件の場合は誰もが仕事に追われ、この問題だけを考えてる暇が無かっただけである。仕事をしていく為には表面上では何も無かったかの様に村瀬さんと制作部は振る舞っていた。しかし、心情的な距離は戻る事は無く、根本的に何も解決はしていなかったのだ。
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