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「ここは何処だ?」
僕は太陽の光が届かないほど深い森の中に一人で立ち竦んでいた。
その森は緑深く、木の影から可愛い妖精が出て来そうなほど神秘的な森だった。
しかし、余りにも深い沈黙に包まれたこの森は、僕を呑み込み、この世で自分だけが取り残された様な気にさせ、畏怖さえ感じさせたのだ。
この深い森をゆっくり歩き散策すると、苔で覆われた倒木から新たな生命が小さな芽として息吹いていた。
この森は時の概念を忘れ、緩やかに自分達のペースで時を刻んでいる様だ。
しかし、この森を見詰めていると疑問が生まれる。何故僕はこの森に居るのだろう。今までにこの森に来た事も見た事も無い。ここに来たプロセスすらどう逆立ちしても思い出せなかったのだ。
でもこの森は嫌いじゃ無い。この感じ、とても気持ちが良い。
僕は暫く森の景色を楽しみながらゆっくりと歩みを進めたのだ。
神秘的な森に心が浄化されていく。きっとこの森の木々は何百年も形を変えずその場で力強く根を張り、大きな幹で世界を支えているのだろう。瞬きをする暇なく変わり行く人間が作り出す世界がちっぽけに感じたのだ。
50メートルくらい歩みを進めながら音の無い世界に身を投じていると、僕は有る事に気付いたのだ。それはこの神秘的な森には似合わないギザギザした電子音が何処からか聞こえて来たのだ。
何の音だろう? 僕はその場に立ち止まり、耳を澄ませてその電子音を注意深く聴く。聞き覚えの有るメロディーだった。
「あっ、この音は僕のケータイのアラーム音だ」
どうやらこれは夢のようだ。それもそのはず。元々僕の記憶に無い場所なのだから。
もっとこの森に居たかった。あーっ、ケータイのアラームがうるさい。分かったって、起きるよ! 仕事に行くって。
僕は渋々ケータイのアラームが鳴る方に意識を集中させ、後ろ髪をひかれながら現実の世界に戻ったのだ。
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