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不運は続いた。
凪地帯に入ってしまい、船は進まない。
一同、着実に天国へと近付いています。
ハルトはふと空を見上げた。目を開けるのもつらい状況で。
あぁ、もう死ぬかも……
なんか超巨大な海蛇みたいのが見えるもん……
あぁ、海蛇が美味しそうなルナを舌で搦め捕った~、舌でルナを~……ルナを~……ルナ……
「を~~~!!!?」
ハルトは物凄い勢いで跳び起きた。今死にかけていたことも忘れて。
目の前には、船など一飲みしてしまいそうな程巨大な海蛇が、コキュートス少女を舌で搦め捕っていた。
ここはすでに、獰猛な海洋生物が棲息する海――獣海だった。
つくづく不運な一同だった。
「ちょっ……フィシュナ!グレイ!」
慌てて二人を揺すり起こすが、
「うるさいです~……」
「静かにしろよ。トイレくらい一人で行け……」
明らかに寝ぼけている。
「お、起きてってば!ルナが大変なことに……って、ルナも寝てるー!」
皆死にかけで目を覚まそうとしない。夢から現実に戻りたくない的なあれだ。
――現実逃避だ。
海蛇は今にもルナを飲み込みそうだ。
その赤い双眸は、マリンブルーの海には不釣り合いだった。ハルトはまさしく蛇に睨まれた蛙のように萎縮している。
誰だって怖い。
ハルトはものっそい震えていた。
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