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僕は人の気配で目が覚めた。
彼女が向かいの席に座っている。
ビクッとした僕に彼女が笑いかけた。
「あの時の方…ですよね」
僕は周りを見回した。
車両には彼女と僕の二人しかいない。
少し、苦い味がした。
「あの時の子?」
白々しく聞く。
「あの時はごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。
「い、いや、いいよ」
少し冷たい風が僕らの間に吹いた気がした。
「あの…」
「…はい」
彼女は少し目線をずらして、
「…なんでもないです」
僕はうつむいていた。
なんだろう…
「私も電車ですぐねちゃうんです」
「僕も、暖かいから、寝ちゃうんだ。恥ずかしいなぁ」
「いえ…あの、」
なんだろう…
「夢の中の人に似てて…」
ドキッとした。
「僕も…」
「え?」
「電車の中での夢にあなたとよく似た人が出ます」
しばらくの沈黙があった。
「また…あえますか?」
「僕はいつも電車だから…」
「良かった」
駅に着き、ドアが開く。
彼女は立ち上がってドアへ歩く。
ふと立ち止まって、
「またあってください」
ベルとともにドアが閉まる。
雪がふわりと落ちてきた。
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