夕焼けの電車にて…

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甘酸っぱい香りがする。 白い家の裏手には、鉄の釜が煮え立ち、リンゴのジャムの香りがする。 「いい匂いだね」 私は何気なくつぶやいた。 「あ、あったよ」 はるかはふわりとしゃがみこむと、小さな茶色のブロックを拾った。 「それ、なに?」 「いいもの。これがないとね」 また、私の手を引いて駆け出していく。 オレンジ色の光のなか、背の高い立木の小道を駆けていく。 いつまでも夕焼けに照らされて、ふんわりとした気持ちのままで、楽しかった。 小さな赤レンガの街の端っこに、花屋さんがあった。 誰もいないお店の前のプランターから、一匹の白い猫が顔を出した。 「私の願いを叶えてください」 はるかは、猫に茶色のブロックを手渡した。 左手に馬車が走り、牧草の匂いをふりまいていく。 心地よい香りに、少し酔っていた。
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