トンネル。

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空の満月が完全に雲に包まれた時。 複数の影が闇の森を重い足取りで歩いていた...。 「前崎、ここから先の経路はお前に任せて良いんだな?」 これは照間正一の声。 いわゆる俺だ。 「おう、任せとけよ」 俺に親指だけ立てた拳を向ける。 正直、信用出来無い。 というか、不安だらけだ…。 前崎以外の奴が口を開かないからか、辺りは虫の泣き声と俺らの足音しか聞こえない。 俺はそれが嫌だったから、恵に話しかけてみた。 「…恵。」 遠慮がちに声を掛けた。 「…何?正一。」 そっけない返事が戻ってきたが、俺は会話が成立したからか表情の笑みが戻った。 「恵は怖くないのか?」 もっともな質問をしてみた。 「…何が怖いっていうの?」 冷たい返事だこりゃ。 「何…って、これから行く犬鳴村だとか…この森だとか…。」 少し焦ったフォローにいれてみる。 「別にぃ…皆が居るから怖くないわ。」 それは頼りにされてるのですか? そう聞きたかったが、私引っ込み事案なので遠慮させていただきます。 「そうか…。 恵って昔から怖がりの俺を見下すのが好きだったもんな。」 笑みが崩れる事なく残り、口調も優しく語る。 「そうね…。 ん、どうしたの前崎くん?」 恵の一言で俺は前崎に向き直った。 「ここだ…」 トンネルか...。 目の前には今にも崩れそうで、朽ちかけているトンネルが闇を生み出していた。 「ここの先に、待ちにまった犬鳴村がある…。」 前崎が緊迫した表情で俺達に意を表した。 ...。 ここで引き返せば良かった…。 そう思う時がくるなんて俺は考えて無かった...。
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