悪夢の幕開け

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「...足止め。」 俺は恵の目を見ず、冷たくあしらった。 そして、俺は続ける。 「皆、先に行ってくれ。 俺はあの化け物の足止めをする。」 「冗談だろ...?」 前崎から、不用意な言葉が漏れた。 「皆、先に行ってくれ。 時間が無い。」 前崎の問い掛けに答えず、俺は皆に語りかける。 「前崎君...中村さん、それと二階堂君..。 ...行こう。」 洋介は俺の提案に黙秘で乗ったようだ。 少し悲しい気もしたが、こんな時だからこだわってはいられない。 「そういう事だ。 後から必ず合流する。 あの建物で待っててくれ。」 俺は、何キロか先にある廃墟を指差した。 その時、恵がおもむろに口を開いた。 「正一...。 気をつけてね...。」 恵は眼に涙を浮かべると、唇を噛み締めていた。 「あぁ...。 ありがとう恵。 必ず、また会おう。」 俺は微笑んでみせた。 それと同時に俺は思った。 恵のああいうところに惚れたんだな...と。 ピシッ。 「来やがったか...。 皆、また会おう。」 もう俺は誰の顔も見ていない。 見てるのは闇の向こうにいる化け物。 後ろから皆が走り去る音が耳に届いた。 ぐっ。 自然とナイフを握る力が増す。 そして再び、心臓が暴れ始めた。 気付けば俺はもう駆け出していた。 闇に。 銀色の刃を翳しながら。
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