1人が本棚に入れています
本棚に追加
コンコンッ
控え目のノックが、澪の病室に響く。
「澪?
また、来ちゃった」
『黎さん?
来てくれたんですか?』
あれから澪は、
僕の事を『黎』とは呼ばず、『黎さん』と呼ぶ。
前は『黎』と呼び捨てだったのに……
『黎さん』と呼ばれると、僕は苦笑いするしかなかった。
「やっぱり僕の事、
…分からない?」
『……ごめんなさい…
分からない……』
「いや、別に……;;
澪が謝る事はないよ」
『ありがとうございます。
……黎さんは優しいですね。
記憶がない私の為に……
親も、分からないのに……』
「大丈夫!!
きっと思い出せるよ!!」
『…………はい!!』
「それと………
黎さんってゆうの、やめない?」
『だって………
その、お世話になってるのに…;;』
「澪は分からないかもしれないけど、
僕達は付き合ってたんだよ……
だから、呼び捨てにして?」
『付き合って………;;
出来るだけ、そうしてみます…』
そう澪は言うと、微笑した。
何だか久しぶりに、澪の笑顔を見た気がする。
澪の久しぶりの笑顔は、酷く安心した。
「澪見て、桜咲いてる。」
『綺麗……!!
黎はいろんな場所を知ってるんだね!!!』
「うん。
凄いだろ?」
『威張るな!!』
「え~……;;」
『アハハッ』
澪はまだ退院出来ない体だから、
僕が定期的に車椅子で外に連れていく。
澪が『外を見たい』と一言言えば、僕は喜んで出かける。
それが澪に出来る、
僕の唯一の事だから。
#
最初のコメントを投稿しよう!