#記憶の入り口#

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コンコンッ 控え目のノックが、澪の病室に響く。 「澪? また、来ちゃった」 『黎さん? 来てくれたんですか?』 あれから澪は、 僕の事を『黎』とは呼ばず、『黎さん』と呼ぶ。 前は『黎』と呼び捨てだったのに…… 『黎さん』と呼ばれると、僕は苦笑いするしかなかった。 「やっぱり僕の事、 …分からない?」 『……ごめんなさい… 分からない……』 「いや、別に……;; 澪が謝る事はないよ」 『ありがとうございます。 ……黎さんは優しいですね。 記憶がない私の為に…… 親も、分からないのに……』 「大丈夫!! きっと思い出せるよ!!」 『…………はい!!』 「それと……… 黎さんってゆうの、やめない?」 『だって……… その、お世話になってるのに…;;』 「澪は分からないかもしれないけど、 僕達は付き合ってたんだよ…… だから、呼び捨てにして?」 『付き合って………;; 出来るだけ、そうしてみます…』 そう澪は言うと、微笑した。 何だか久しぶりに、澪の笑顔を見た気がする。 澪の久しぶりの笑顔は、酷く安心した。 「澪見て、桜咲いてる。」 『綺麗……!! 黎はいろんな場所を知ってるんだね!!!』 「うん。 凄いだろ?」 『威張るな!!』 「え~……;;」 『アハハッ』 澪はまだ退院出来ない体だから、 僕が定期的に車椅子で外に連れていく。 澪が『外を見たい』と一言言えば、僕は喜んで出かける。 それが澪に出来る、 僕の唯一の事だから。 #
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