浮遊

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渋谷の夜 仕事帰りのサラリーマンや 若者たちが仲間と飲みあう その路地で 詩穂もまた 彼と共に 食事に立ち寄っていた あきら 今夜は何食べようか? そんな言葉を問い掛けていた時である ふと 目線を少し進行方向に向けると 一瞬酔っ払いかの様に見える 頼りない歩き方で 体をようやく 維持できている 男性が 目に止まった 近付くと やはり 酔った歩きには見えるが 少し様子がおかしい その次の瞬間 痛てぇ~と言い 腹部を押さえながら 道上に倒れこんだのだ 無論 周りの通行人は 酔って倒れこんだと思い 一度は男性を視界に入れるが また 前を向き歩き始めるのだ そんな人込みの中を 倒れた男性は 体を左右に体交させ 聞こえないような声を吐いていた 詩穂は 彼に最も近付くと 彼の口元が真っ赤になっているのに気付くのだ 吐血… それから腹部の疼痛 それもかなりのものである 詩穂は 慌てて 倒れた男性の上半身を抱き起こす ダメだわ チアノーゼも起こしているわ 潰瘍からの出血?或いは大動脈の破裂? 急いで病院に搬送しないと! 詩穂は 119番通報する もしもし こちら 渋谷 ○丁目信号近く 20代半ばの男性 数分前に吐血し 路上に倒れてます 至急!救急車をお願い! 詩穂は倒れてる男性を 吐物が喉につまらない様に 側が位にして 声をかける 大丈夫よ もう少しの我慢だから 倒れてる男性は ぼやけた意識の中で 女性の声をかすかに聞いた これが 詩穂とあきとの 最初の出会いだった…
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