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[おまえは何のために…絵を描く?]
唐突な質問だった。
テレビのインタビューでは
[あなたにとって絵とは?]
と、聞かれた事がある。
[自分の心です。]と、昔読んだ本の科白をそっくりそのまま答えたが、今答えるのは不可能だった。
[……答えられないか]オヤジが言う?
[だから、おまえの絵はくだらないんだ]
[…………ツ!?]思わず反論しそうになった
[申し訳ありません]と、答えた。
[………まだだ……あと少しだ……もう少し……頼む……]
[え?]聞き返そうとする俺に一言も言わず出口へと歩き出した。
その夜だった、オヤジが…倒れたのは。
心臓発作だった。
俺は急いで病院に駆け込んだ。
すでに意識はなく、助からないと、医者がいう、
だが…[そこにいるのか…]
オヤジが意識を取り戻したのだ。
[こ、ここにいますよ…父さん…]
改めて見るオヤジの姿は頼りなかった…
オヤジがかすれた声で言った。
[絵を描け……]
[……………?]
俺はオヤジが何を言っているのかわからなかった。
[覚えているか……。おまえは、初めて買ったクレヨンでたくさんの絵を描いたんだ……]
[?]
ますます、訳がわからなくなった。
[あんな絵をずっと持って、しかしそれを飾らせようなど、ただの親馬鹿に思われたかも知れないが…]
オヤジは言った。
[あのとき……私は確かにおまえにヒカリを見た。私にはないヒカリを描く力……。すばらしい光を……輝きに満ちた光を見た…][嘘だ!俺に光なんてない!]
[俺に光を?自分にない光を?]
俺は正直驚いた、オヤジからそんな言葉が出るなんて…。
[だけど……。俺には何もないんだよ…]
[絵を描くんだ…私がたどり着くことが出来なかったところへ……おまえが行くんだ……]
[…………父さん!!]
その時だった、オヤジの声がしなくなったのは…
[父さん……]
失った物が大き過ぎて…涙もでなかった…。
俺はまた絵を描いた…一つ一つに色を塗り、完成した…一枚は、[子から父へ]というタイトル。
[もう一枚は父から子へ]というタイトル。
あの時のオヤジの笑顔が、蘇る…
そして、いつしか見た少女がいた…
[上手な絵だね]と、言い、その場所から離れた…
[最後に言わないと…]俺は思った、心の中で…
ありがとう…オヤジ
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