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―――その間、少しだけ後ろの教会を見つめる。
今まで、ありがとうございました―――――――
夕刻、近衛爺さんの言う“準備”の為の人達がやってきた。
俺は最低限の荷物を持って、近衛爺さんの隣に佇んでいる。
『………友よ、おぬしの願いはワシが果たそう』
ふと、彼の口からそんな言葉を聞いた気がした。
『―――じゃから、静かに眠っとってくれぃ』
それから、二ヶ月と経った辺りの頃だろうか。
あまりの麻帆良のスケールの大きさに驚きもしたし、非現実的な出来事が日常的に巻き起こる生活にもずいぶん慣れたと思う。
初等部の学校に転入してそれなりに悪友やら親友やら出来た。
あ、それと女の子にも友達が出来たんだぞ!
………やたら飛び蹴りをかますスゴイ子とか、大和撫子みたいな関西弁の子とか、いいんちょという少しきまじめな子とか普通とは一線を引いてるけどさ………
寮生活では相部屋に俺しかいないから少し寂しい気もするが充実した毎日を送れている。
気付いたら部屋中に友人がいて宴会騒ぎを起こしてるなんてざらである。
それが俺の寂しさも紛らわすためにやっていると気付いた時は感動して泣いてしまったことは、今ではいい思い出である。
さて、今日は爺さん(気持ち的に祖父と孫のような感覚だからである)から月の始めに貰うお小遣が目当てで学園長室前に来ている。
ガチャっ、と西洋を思わせる扉をノックなしで開く。
「爺さーん、小遣い貰いに来―――」
―――そこで時間が止まった―――ような錯覚を感じた。
目の前には爺さんではない人がいた。
女の子だった。
それだけならこんな錯覚を覚えることはなかっただろう。
女の子―――少女の容姿は自分が今まで見てきた女の子のどれにも当て嵌まらない、不思議な存在感が出ていた。
西洋人形を思わせる純白の肌、
ウェーブのかかった長い金砂の海のような長髪、
初等部とは違う、僅かに大人の色を宿した洒落のある制服、
―――そしてなにより、まるでこの世の全てを見てきたような、どこまでも深く底が見えない瞳。
呆けたように少女に見取れていた。
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