剣を継ぐ日

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「(この小僧………そうか、あの神父が養っていた孤児院の残りか。あの神父がくたばったのはジジイから聞いてはいたが………まさか孤児を残しておいたのには、少々呆れたがな)」 内心、溜め息をつき、視線を目の前の盤に向けようとして、 「な、なぁ。アンタは、その、何してるんだ?」 「―――む、私か? なに、ジジイの老骨でも鍛え直してやろうと思ってな。見ての通り、五目並べをしてやってるんだが………知らんのか?」 コクコク、と首を上下に動かす。 その様はまるで餌を与えられる直前の子犬の様で、少し愛くるしい印象を覚えた。 「ほぅ……………よし。ちょうどいい、ならばジジイの代わりとして貴様に相手をしてもらおうか。 暇つぶし、といっては何だが五目並べがいかなるモノか教えてやろう」 そういって、盤に乗せられている白黒をひっくり返す。 「え?い、いいのか? 爺さんとやってたんだろ?」 「ふん、もう既に20分程待っているが一向に来る気配が見えんのでな。 ここで会ったのも何かの縁であろう貴様とやる方がよっぽど面白みがある。 暇を持て余すのは、なんとも退屈なモノでな」 黒の石を選抜して、白の石を向こうに渡す。 「え……えっと………。………うん、それじゃ」 少年も決心がついたようで、私の手から石を受け取る。 緊張のせいか、少年の顔は熟した真っ赤な果実のようである。 くっくっく………女に面識がないぼーやだな。 「そう緊張することはない、これはただのゲームだぞ?」 「き、緊張なんかしてないって……!」 少年の顔はみるみる赤く染まり上がり、終いには両の耳から黒煙でも上がりそうな勢いにまで参っていた。 「ふふ………冗談だ。 ―――――では」 石を持ち、右手を天へ掲げるように伸ばす。 「気楽に来い、どうせ最初の一度は叩き潰されるのが決まっているのだからな」 「………お手柔らかに、お願いします………」 くっくっく、何故かは知らんがいい気分だ。 今はこの時間を堪能でもさせてもらうとするか。 そして幕は上がった―― ―――物語は、この日より5年の歳月を経て始まる。 この日、この時少年の胸に抱かれる思いが、少年の運命の歯車となる。 それはまだ………誰も知らない予定調和。 今はただ、上がる幕を眺めるのみ……………
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