逃げないで。

3/6
前へ
/13ページ
次へ
暫くの沈黙…。 不意に男は立ち上がり、ニッコリと笑いかけてきた。 「私は十分に休憩したので行きますね、またいつか合いましょう」 去ろうとする男の背中に僕は自然言葉を投げた。 「あまり休んでないだろ?」 男は相変わらずの表情で振り向いた。 「私は少し歩いては少し休憩したり、たまに走ってみたり寝てみたり、そんな風にこの道を歩いていますから、今回は少しずつなので十分なんですよ」 男はユックリまた僕に近づく。 「この道の名前を貴方は知っていますか?」 問われた事に口を開いたけど言葉にはならなかった。 「あぁ、それさえ見失うほどに疲れていたのですか」 言いながらも男は表情を変えることはなかった。 「この道はね、人生ですよ」 通ってきた道を振り返り僕は小さく頷いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加