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それから子供は街に帰りました。
街はもう日が暮れ、広場で遊んでいた子供達は親に連れられ、もう帰っていました。
今日の出来事は子供にとって良い意味でも悪い意味でも心に残る事でしょう。
しかし子供はそれ以前に、今日の出来事が嬉しくて嬉しくて貯まらなかったのです。
子供の頭の中はこの話を誰かに聞いて欲しい気持ちでいっぱい。
ですが子供にとって、そんな身近な存在は誰一人いませんでした。
そこで子供が思いついたのはあの大人です。
子供はあの大人が猫子を殺そうとして自分を利用した事や、自分の入った小屋に火を点け、助けずに逃げ出した事はもちろん知りません。
心の濁りきった大人を、子供は自分に優しくしてくれた人として、自分を分かってくれる人として、信じていたのでした。
子供は早速大人の家に向かいました。
小さい体でドアノブに手を掛け、その家をノックします。
中から扉が少し開き、子供を確認すると扉は全開に開きました。
「お入り。」
子供が猫子との話をしに来たのだと悟り、大人は子供を招き入れました。
家に入ると殺風景な部屋が広がっていて、大人は子供をテーブルの向かい側に座らせて約束のお菓子を子供に差し出しました。
そして自分もその正面の席に座ると、直ぐに話を始めました。
「どんな風に遊んだんだい?」
大人は遊んだ事に対して何も知らない素振りで訊きました。
子供はその質問を待ってたとばかりに嬉しそうな顔で反応しました。
今日あった事、もちろん火事の事、猫子が助け出してくれた事も、子供は全て包み隠さず話していきました。
その顔はとても嬉しそうで、あんな悲劇を体験したのが嘘の様でした。
大人は自分がした事が子供にバレてないと一安心しました。
しかし猫子が子供を助けたという事実には納得いかない様子です。
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