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其れは、総てが紅く色付く季節。
其処は、生える木々が何時までも夕色を湛えている場所。
昔、其処には貧困と死が溢れていた。
彼は歌っていた。
いつも、いとしい人が帰って来ることを夢見ながら。
買って嬉しい、華一匁
まけて悔しい、華一匁…
あの子が欲しい
あの子じゃわからん
この子が欲しい
この子じゃわからん
まぁるくなって…
そこで、いつも歌は止まった。
真っ赤に色付いた赤子の手の様な紅葉が地面に広がった。
風に紛れ、濃い血の匂いとともに若い男のすすり泣く声が流れていった。
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