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「祐也、大丈夫。俺達が4点くらいひっくり返してやるから、打たれるか打たれないかの結果はどうなってもいいから、自分の球を信じて、納得の行く球を投げろ。それが打たれてもお前が自分に誇れる球なら俺達文句言わねえよ。一人で責任を背負うな。野球ってのは楽しいものだろ?お前、楽しんでないぞ。いつも通り、偉そうな顔して投げてればいいんだよお前は」
四番ショート牧原。キャプテンだ。いつの間にかタイムがかかってて内野が集まっていた。
「キャプテンキザ~」
グローブで口を押さえてみんなが笑う。
「何こわばってんだよ。遊佐」
「頑張れ。お前ならいける」
「俺達のエースはお前しかいないんだぞ」
「そうだ。俺達も守るからな」
そう言って僕の腰や肩を叩く。
「なんだよ。僕が打たれるの前提みたいじゃないか」
「バカ。さんざん荒れてよくそんなセリフがでるな。まぁやっとお前らしさが戻ってきたよ」
そう言ってまたみんなが笑う。ったくみんな緊張感が無いな。
僕も小さく笑う。
「頼むぞ」
牧原が最後にグローブで僕の胸を叩いてみんなが守備位置に戻った。
僕は大きく深呼吸した。なんだか落ち着いたみたいだ。いや、怖がってるのが馬鹿馬鹿しく思えてきただけだ。「なんだよ。こんなので立ち直れるならもっと早く声かけろよな」そう一人でぼやきながら、ロージンバッグに手を掛けた。
プレイがかかる。僕はキャッチャーが出したサインに首を振った。
打たれたら同じ球で勝負したい。だってたとえ違う球で抑えても、やっぱり自分が劣っているように思えて、勝ったと思えないからだ。真っ向勝負のインハイ。それ以外は逃げだ。
さっきと同じインハイの球。二回に打たれた幻影が重なる。
同じ肘のたたみかた、手首の返し、腰の回転。
またしてもレフトに打球が飛んだ。
小野が勢い良くバックする。
「あのバカ、浅く守り過ぎだ」
キャッチャーが口を開けて打球を目で追う。
牧原が中継に走る。
が、しかし、小野が追いつかないことは明らかだった。
───ドスン
そんな音が聞こえたかどうかマウンドからじゃ明らかではないが、スタンドに入った。ぞくっと、また僕の背中に悪寒が走った。
それとともに、頭を思いっきり殴られたような衝撃に襲われた。
僕はただショックで、唖然としてスタンドを見ていた。
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