霊安室にて

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俺は…もう二四だ。 あれから…そうだな、十年ぐらいか? 長いこと会って無いから、お前の顔も、忘れてしまったかと思ったが… 忘れないもんだな、愛した人の顔は… あれからな、俺…北海道に居たんだ。 雪が背よりも降るんだ、凄いだろ? でも、夏は涼しいかと思ったら、やっぱし…暑かったよ…。 それから…そうだな、海産物は、最高だよ…。 回転寿司が、こっちなんかより、断然旨いんだ…。 えと…それから…。 ―言葉が止まる― ―反応の無い会話― ―思い出すのは、あの遠い日々― ―涙が一筋、頬を垂る― ……………………っ、 っ………っ…ッ! ―次から次へ、流れる涙はどうしても止められない― ―愛雅に…俺は何が出来たのだろう?― ……………………ッ …………うぅ………うぁ… ―ただ、それだけ…それだけでいい…― …………つっ… …………………うぁっ ―教えてくれ…愛雅― ―少しで良いから…目を開けてくれ― ……………つっ… …………うぁっ……………うぇぅ… ―何でもするから…― ―何でも…するか…ら…― ……………………… …………… … 愛雅の肩を揺さぶる…ただ、それにつられて、動かされているにすぎない亡骸。 顔面が露わになる。 整って、大人びた妹―愛雅の青白く、頬と目が少し陥没した醜いその姿。 一層泣き崩れる。 ―あい…かぁ……あぁい…かぁ………― 自ら何を口にしているか分からない…ただただ、愛しい人の名を呼んでいる。 それは、余りに遠く、余りに近過ぎて、届かない叫び… “お兄ちゃん”と 一瞬聞こえた気がした。 “お兄ちゃん” “お兄ちゃん” 聞こえるはず無い声に、俺は無意識に問い掛けた 俺はどうすれば良い…? ……………………答えてくれよ…………… ………なぁ……………愛雅………………?
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