~第1話~月夜の悲劇

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―帰り道― それは、春を待つにはまだ遠き、雪の舞う季節だった。   いつもの見慣れた街並みを背に、私、大和武流(やまとたける)は自宅への帰路を歩んでいた。   武流『今日も突き刺す様な寒さだな』 と、そっと呟いてみた。   1人暮らしのため『ただいま』の返事は、非情にも時を刻む壁掛け時計の音色だけである…。   …今日の夜空には満月が煌めいている。   私が好きな形。   …しかし今日は違った煌めきだった。 妖しく…いや、言葉では表されない程、紅に…。     自宅までの距離はあと少し。 今日も味気ない夕食に舌鼓出来るはず…     …だった。     ―???―   私は気を失っていた様だ。 後頭部がズキズキと痛みを訴えている。   武流『………くっ!』 痛みに耐えきれず、思わず声を出してしまった。   …どれほどの時間が過ぎていたのだろう。 …他に異常が無いことは、不幸中の幸いと言うべきだ。 しかし、所持していた荷物が姿を消していた。 携帯電話、財布が無くなったことに気づいた。   …私には疑問が満ち溢れていたが、まずは私がどこにいるかと言うことが1番だった。   どうやら、どこかの廃屋に閉じ込められている様だ。 割れたガラス窓から、妖しく紅に煌めく満月が見える。   まだあの夜は続いている。     体は動く…。 早くここを抜け出して、警察に被害届を出すべきだ。   しかし…この時彼は知らなかった。   これから起こる…地獄の様な“運命”を…。
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