第一章「存在価値」

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    まだ寒さが肌を刺す二月。   けれど、春の訪れはそう遠くはない。 暖かい日差しが殺風景の病室に差し込む。 優雅は、この春18歳の誕生日を迎えようとしていた。 しかし、これが最後の春になるだろう。   入院して早二ヶ月。 良くも悪くも「刺激」のない孤独の空間。 繰り返される規則正しい生活リズム。 おかげで、早起きが身についた。 今までの生活とはかけ離れた生活だ。   優雅は、穏やかに流れる雲を見つめ、短い「今まで」を振り返ってみる。   優雅は、13歳の時、自ら「孤独」の道を歩んだ。 それまでは、名の知れた大手病院の長男として、何「不自由」なく暮らしていた。 きっと、将来の地位も名誉も「幸せ」も約束されていたかもしれない。   しかし、優雅はそんな「決められた人生」から逃げ出した。   …違う。   父から逃げ出したのだ。   父は、優雅を酷く愛した。 息子としてではなく、「性対象」として。   幼い頃から性的暴力を受けていた。 年を重ねるに連れ酷くなる暴力に、優雅は逃げ出した。   しかし、優雅には行く当てもなく、夜の街を身体一つでふらつくしかなかった。
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