第七章「涙」

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葵は探していた。   突然姿を消した愛しい人を。   そして、今日も居るはずのない病室に足を運んでいた。   誰もいない病室はとても静かで、真っ暗だった。   葵は、優雅がいつもいたベッドに近づいた。   「あの時」の残骸は綺麗に片づけられ、何もなかったように時間は流れていた。   もしかしたら「優雅」さえも存在してないかのように。   葵はゆっくりとベッドに腰掛けた。   うるさすぎる静寂。   葵は泣きそうになった。   優雅はきっと、今のあたしのように酷く泣きそうだっただろう。   気が狂いそうになる程の「孤独」を突きつけられる空間。   「隔離」された静寂。   葵は小さく愛しい人の名前を呼んだ。         しかし無惨にも愛しい人の名前は静寂に飲み込まれた。
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