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「…ぃ…ちゃ…。…おい…ゃん。…葵ちゃん。」
葵は目を覚ました。
「やっぱりここに居た。探したわよ。」
看護婦さんが微笑みながら葵の頬を伝う涙を拭いた。
葵はいつの間にか眠ってしまっていた。
「…あ…。ごめんなさい」
葵はまだ眠気の残る身体を起こした。
「いいのよ。…優雅君…元気だといいわね。」
看護婦さんは少し淋しそうに呟いた。
優雅がいなくなった事がわかったのは、「あの日」から一週間経った頃だった。
勇気を振り絞り、優雅の病室の扉を開いた。
しかし、そこには優雅の姿がなかった。
葵は呆然と立ち尽くした。
優雅がいない。
葵は気が遠くなりそうだった。
もしかしたら…。
葵はそこで考える事をやめた。
そして、高橋の元へと走り出した。
「脱走。」
その言葉を聞いて葵は心底安心した。
だが、葵は胸が痛くなった。
優雅はきっと自分のせいで、深く傷ついた。
そして優雅をさらに苦しめた。
だけどあの時、確かに聞こえた。
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