第七章「涙」

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今日も葵は未だ帰らぬ優雅の病室にいた。   もう少しで梅雨が明けるらしい。   葵は降りしきる雨を見ながら溜め息をついた。       (雨は嫌い。) 雨の多いこの季節は、葵にとって憂鬱だった。   雨は寂しくなる。   響の「笑顔」が見れなくなったのも、この季節だった。   「優雅は雨が好きだったなぁ~。雨のどこがいいんだか。」   訳わかんない。と葵は鼻で笑った。   「優雅って本当わかんない。あたしの事無視するし、案外子供みたいに意地っ張りだし…。病人のくせに病院から逃げ出したり…。」   葵は誰も寝ていないベッドを見ながら呟いた。   「…何よ。あたしより綺麗な顔してるのに。自分の事「汚れてる」だとか。全然汚れてなんかない。…馬鹿優雅。」   雨がより一層強くなった。            「……会いたいよ。」              「優雅…。」         葵の瞳から優雅への想いが溢れ、こぼれ落ちた。           葵はまだ知らなかった。             すぐ先にある              「涙」の             「存在」を…。
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