第八章「鍵」

3/5
前へ
/61ページ
次へ
優雅はゆっくりと瞼を開けた。   急に明るくなった視界のせいで上手く焦点が合わなかった。   「優雅ッ!!!!」   とても懐かしい声。   手にギュッと力が加わった。   だんだん周りが把握出来た。         見慣れた天井。         見慣れた顔。         葵と目が合った。     葵は小さく名前を呼び、泣き崩れた。               俺は              生きていた。           久しぶりに手を握った。   とても暖かかった。   名前を何度も呼ばれた。   耳に心地よかった。   初めて出会った。   自分の為に泣く人間。         まだ意識が朦朧とする中で、優雅は初めて感じた。           満たされていく心。        どんなに躯が満たされても、その都度渇いていく心が。         優雅は薄れゆく意識の中で、葵の手を、ギュッと握り返した。         そして、再び視界が真っ暗になっていった。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加