第八章「鍵」

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  優雅は病院に運ばれていた。         何日も無断欠勤していた高橋を不振に思い、看護婦さんが高橋の家を訪ねたという―。         何度も部屋に響く、インターホン。         鎖で繋がれ、おまけに衰弱していた優雅は、ベッドから動けず、意識すら保てられなかった。         幸い、「トリカゴ」の鍵は開いており、中を覗きにきた看護婦さんにより、優雅は一命を取り留めたという―。         「その時の姿はとても酷かった。あなたに意識はなく、ガリガリにやせ細り、躯には無数の痣。手首には鎖…。もう…死んでいたと思った。」         看護婦さんは涙を流しながら話していた。         高橋は捕まったらしい。        葵が言った。         優雅は葵の手を解き、身体を背けた。         「…もう…くるな…。俺に…近寄るな…。」         突然の言葉に葵は動揺した。       背向けられた背中が今すぐ消えてしまいそうだった。       葵は、消えてしまいそうな優雅を抱きしめた。
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