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現代――
その日、彼は朝から不思議な感じがしていた。
毎朝の居合いの練習を終え、大学へ向かう最中。
ふと、歩みを止めて見上げた。
その先に見えたもの。
今にも朽ち果てそうな鳥居。
奥には社が見える。
誰かに呼ばれているような気がする。
彼は、ゆっくりと階段を上がる。
一歩、一歩。
苔の生えた石の階段を上がる。
鳥居の前にたどり着き、その歩みを止める。
そして、一歩、中へ――。
「――ッ!!!」
突風が吹き荒れた。
周りは大木に囲まれているというのに――。
その中でも一番目を引いたのは、桜の大木だった。
彼はその桜の大木の根がはってきている足元を見やった。
「なっ――!!」
気がついた時はもう手遅れだった。
体が傾く。
まるで、底なしの沼にはまったように。
彼はその身ひとつ、地中へと引きずり込まれた。
突風が止む。
森の声が静かになる。
そう、何事もなかったかのように、静寂が支配する。
残されたのは、黒い鞄のみ。
――その歴史が、史実が、動き出す。
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