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時は一一八四年――
「っ…ここは…?」
朦朧とした意識の中、辺りを見渡す。
どうやら、死んではいないらしい。
彼はゆっくりと立ち上がる。
地についた手から花弁が舞い落ちる。
「――白梅…?」
その花弁は足元にも。
白梅の木が辺り一面に立っていた。
その中に淡いピンク色の木を彼は見つけた。
一歩、一歩ずつ。
フラついた足取りから、しっかりとした足取りへ。
ようやく見えてきた。
彼は目を見開いた。
艶やかなピンク色の花を咲かせたその木――枝垂れ桜。
そして、その桜の木の麓に人がいた。
彼は駆け寄る。
「すいません、あの…」
「そなたが…私の…」
彼は眉を寄せた。
目の前の人物の服装。
それは戦国武将の鎧姿。
兜は被っていないが、長い髪が邪魔をして顔が見えない。
力の入っていない右手には太刀が。
そして、足元に広がるのは深紅の血――。
この血は――この世界は―一体――。
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