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その人物がゆっくりと顔を上げる。
彼は更に驚いた。
サラサラと髪が流れ落ち、その間から覗く瞳、そしてその顔の成り立ち。
どう見ても自分と瓜二つ。
驚いた彼の表情に、目の前の男はフッと笑う。
「――私の名は――源義朝が九男、源九郎義経――。そなたに…頼みがある…」
ただでさえ、目の前の人物が写真でしかみたことない、鎧姿だというのに。
更に、あの有名な源義経だという事実。
彼は生唾を飲み込み、息も絶え絶えな源義経の側へ座した。
源義経は力を振り絞り、太刀を彼へと突き出す。
その意味とは――。
「…私として…生きよ…」
静寂が生まれる。
その言葉の意味に彼は呆然とする。
何を言っているのか。
勝手なことを。
彼は唇を噛み締めた。
どうすることも出来ない。
源義経として、この乱世の戦国を生きる――?
現世に帰ることは――?
再び、突風が吹く。
桜と白梅の花弁が大きく舞い上がった。
シャリン、と甲高い鈴の音が聞こえた。
彼は音の方を見やった。
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