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キィ、と社の戸が開く。
その奥には先程の鈴を持つ女性が怪しく立っていた。
一歩中へと踏み入れる。
彼は太刀を握り締め、何かあればすぐさま抜けるよう、束に指をあてがった。
「――死の神、摩多羅は人間の太刀になど切れぬ」
フッと目を細め女性は笑う。
女性が一歩、歩み寄る。
シャリン、と鈴が鳴った。
彼は、唇を噛み締め相手を見やる。
気のゆるみは、死を示す。
張り詰めた空気。
ギ、と床板が音を立てる。
「――選ぶが良い。源義経として生きるか、ここで命を絶つか」
透き通った声が響く。
彼はギリッと強く歯を噛みしめた。
やはり、帰る、という選択肢は無いのか。
「――帰る、か?」
「帰れるのか…?」
「――なれば、神器を集めよ。神器が糧となり道を開く」
「…神器…?」
古から伝わる神器。
それは、剣、玉、鏡――三種の神器。
やはり実在するのか。
彼は少しの間考えた。
自分の力量、可能性。
それに賭けてみたいと思った。
――この名も、彼の名。
それが運命だとしたら――この身は乱世に染まる。
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