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「……不覚…」
思わず呟く。
重い頭を持ち上げ身を起こしかけて…春菜は右腕に触れた人肌の温もりに気付いた。
「おはよう。何が…不覚なの?春菜」
自分の乱れた髪に指先を絡ませる男の顔に、春菜は驚愕して跳び退いた。
「……え…っ!」
滑り落ちたシーツの下がやけに涼しく感じ…目をやると自分が何も身につけていないコトに気付く。慌ててシーツを身体に巻き付けて、もう一度相手の顔を確認する。
「……吉川?」
ニヤリと笑ったその表情にカッと顔が熱くなった。
いつもの…ワックスで前髪を後ろに撫でつけ、伊達眼鏡をかけた風体の、営業マン姿は何処に行ったのか。同一人物である事を疑いたくなる程、男の雰囲気は会社とまるで違う。
「昨日…何があった?」
聞くまでもない状況に困惑しながら、3歳年下の同僚…いや、部下である『吉川篤』に確認をとる。
「覚えてないの?」
半分だけ身を起こして、下から覗き上げた篤のその額に、サラリと柔らかそうな栗色の髪が垂れる。
やけに綺麗に感じて、春菜の心臓はドクンと跳ね上がった。
「コンペの契約が取れた祝いに、課で飲みに出て…2次会のバーで…」
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