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僕は人参を手に持っていた、綺麗な朱色で、先になるにつれて細くなっている。
それはどう見ても人参だ。
だけど彼女は言う。
「それは人参じゃないの、分かる?あなたが手に持ってるそれは人参じゃない」
まさか、そんなはずはない。僕はもう一度手に持っている人参を見た。
……やはり人参だ、彼女がなんと言おうと僕にとって昔からこれは人参だった。
「ねぇ、君の言ってる事がよく分からないよ」
僕はそう言って彼女を見た。彼女はいつの間にか泣いている。
「可哀相な人、私がもっと早くに気付いていたら……」
彼女が何を言っているのか僕にはさっぱりだった、でもとりあえず抱き締めた。
彼女に泣いて欲しくないのだ。
でも彼女はそれを拒む、それどころか逆に僕を抱き締めて言う。
「お願いだから正気に戻って、人参はもっと違うものよ」
僕は彼女の言葉の意味がよく分からないまま。
「僕はいつだって正気さ」
そう言ってみた。
……でも、もし彼女の言う人参が本物なら、僕はもう一度人参を知る必要性があるようだ。
僕は彼女の言葉を素直に受け止めてみることにしよう、そう思った。
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