信じるということ

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信じるということ

  俺は沢村に言った。   「私は元○○会で初代本家の預かりでした。個人的には三代目S会のO兄貴を頼りたい所ですが、本家から何ら通達がない以上、勝手にどうこうできません。   藤原が私のことを何と言ってたかは知りませんが、私はS龍会だとも長澤組だとも思ってませんし、事実、盃ももらってなければ親分もいません。   藤原兄貴のたっての願いだった為に、兄貴の組を手伝ったまでです。   今後、長澤組の皆さんに世話になるつもりもありません。   残りの藤原の若い衆に関しましては、元は私が預けた若い衆です。本人たちはカタギになる意思が固まっていますので、その旨ご理解下さい」   沢村は、この後もずるく立ち回るが、俺は藤原と違う。沢村の言いなりにならなかった。   その後、一ヶ月半、俺は部屋に篭った。毎日一人でいろんなことを考えた。   俺は多くのモノを失った。そしてひとりぼっちになった。   今の時代、こんな事を言えば笑われるかも知れないが、ヤクザとは生き様だと習った。   「ヤクザなら逃げるな。逃げても始まらない。強い相手と会う度に逃げていたら、これから先、強い相手と何かある度に逃げる事になる。だから絶対に逃げるな」と教えられた。   それがヤクザだというなら、今回オレ側にヤクザはいなかった。   誰もが皆逃げ腰だった。   普段、口では偉そうな事を言って、組長だとか頭(カシラ)だとか言っては、街のカタギに威張り、武勇伝を語り、肩で風切って歩いてた連中は、ひとりじゃケンカも出来ない連中だった。   自分は掛け合い出来ないんで代わりに行って下さいと言った武田に、筋違いだと怒った。そんな弱気でどうすんだと叱り飛ばした。   ケツは拭く。大丈夫だ。と言った藤原に期待した。   偉そうに振る舞い、ケンカはまかせろと言ってた沢村にも期待した。   しかし、皆、口だけ番長だった。 俺はその人間達をヤクザだからと信じた。   信じるという事は受け止めるという事だ。   結果が違うモノであっても、たとえそれが嘘だと判っていても、それを知りながら受け止める。   それが信じるという事だ。と教えられた。   だから、人を信じた結果が吉でも凶でも、俺はその結果をしっかりと受け止めるしかなかった。  
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