修羅道

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  俺は腹をくくっていた。   「お気遣い無用です。もう誰も関係ありません。組織の代紋も関係ありません。自分は初代本家の預かりでしたが、棚に上げられたまま宙ぶらりんの状態です。   その間、自分は個人としてヤクザ者と掛け合いもしてきましたし、シノギもしてきました。   しかし、親無し盃無しの今、組織に属してるのかどうか、自分でもよく判りません。   それでも私はヤクザです。組織に居る居ないに関係なく、ヤクザである以上は引けないところを引くわけにいかないです」   それを聞いた副組長は笑った。 「商人さん、あんた気にいった。ウチの組織に来い。ウチの組に来るなら全て水に流す」   俺は有り難い話しですが、と丁重に断り電話を切った。   葬儀には余所の組の人間も来る。過去ヤクザの歴史上、住吉会と稲川会が葬儀場でヤリ合った例外もあるが、そこに襲撃はかけて来ないはずだ。葬儀場所は手薄で構わない。外に向けて配置をとるべきだと判断した。   俺は配下とその周辺者を全て集めた。 四代目○○会時代に離散した、東京や福岡にいる若い衆や舎弟まで呼び出した。   全ての責任は俺が背負う覚悟だった。   沢村は他人顔だったし、沢村など眼中になかった。俺とK組の戦いだった。   武力なら負けるつもりはない。道具なら豊富にある。   俺は相手の事務所付近、主要人物のヤサ、隠れ家、立ち回り先などに偵察隊を配置して、逐一動きを張らせた。   あとは、襲撃してくるだろう俺のヤサ。そこには迎撃班を内と外に数ヶ所配置した。   来る場合、そこを必ず通らなければならない道の要所は三カ所、国道、裏道、北広島経由道のポイントに迎撃と連絡のための人間も配置しなければならない。   俺は札幌の菱の直系組織にいるもうひとりの兄貴分に、初めて今回の事を相談した。   表立っては無理だが、と密かに応援部隊を出してくれた。   そのO兄貴は言った。 「商人、随分と淋しい思いをしてきたな。全て解決して俺のとこに来い」と。   この一連の事件は、武田の死後から狭いZ市で持ち切りの話題だった。   俺のことも瞬く間にZ市に広まった。通夜の席で、以前対立した組の幹部が話しかけてきた。   「同じ菱。協力しますよ。何か必要なことがあったら言って下さい」   有り難かった。  
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