獣の詩

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 嗚呼、喩えば誰が知ろう。こんな空間が存在することを。  無限にして広がるそこは、一見に宇宙空間を思わせる。  散り散りになった星の煌めきは、まるで元より有り得なかったものであるかのように、ゆっくりと消えてゆく。  そこに存在はなく、然し、唯一匹、彷徨える獣の姿が存在した。 「嗚呼・・・」  幾度となく繰り返されたその呟きに特に意味はなく、舞い散る星屑がそらの黒を掠めてゆく。  砕け散り、砕け散り、鏤め、舞い落ち、そしてまた収束する。  その火花に終わりはなく、だがしかし、決して始まりなどもなかったのだろう。  或る時が無限の輪廻の上に成り立っていたように。  廻る華にも終わりはあらず。その嘆息も終わりなきものなのだろう―――― 「嗚呼・・・」  獣は虚空に佇みながら黄昏れていた。  果たしてその心境を誰が知ろう。その羨望を誰が知ろう。  獣は道を間違えたのではない。獣は獣で在った時点で既に間違いである。  故に絶望。怨望。渇望。羨望。切望。失望。    その全てで世界を侵した時があり、同時にそれは遠い過去の御伽噺も同意と化した。  果たして獣の渇きを知ったのは、獣の堕落を理解(し)ったのは、獣の惰性を慧解(し)ったのは―――― 「まだ、彷徨っておられるのですね。マスター」  ――――彼の少女一人だけだった。  獣は世界に切望し、失望し、渇望し、羨望し、絶望し、怨望した。  故に孤独(ひとり)。聖書の獣はただただ堕落(お)ちてゆく。  然り、墜ちるように出来ているのだ。あの金色(こんじき)は。  そもより彼に居場所などなく、生涯あってはならなかった。  そもより彼に居場所などなく、故に障害を屠る力が必要(い)っただけ。  火の女のカタチをした彼女とて例外となく。  ただ、そこにあるだけでは意味など皆無。  否、元より意味など必要なし。獣はそう在るだけに存在し、その生涯に意味などなかったのだから。  喩えば、遊戯。戯れ。唯々その永劫の絶望に浸るだけ。  アレは抗うことを止めたのだろう。始まりがあったかも不明だが。 「嗚呼、喩えば美しいと。ただそれだけだよ」
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