プロローグ

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      あいつの葬儀から3ヶ月が経った 僕は今、若手芸人のライブオーディションの控え室にいる 別にあいつが書いた遺言に僕がピン芸人としての欠点が書かれていたからやるという訳ではない 僕がやりたいからやる、それだけだ 前半15組のネタが終わり、MCの芸人が出てきた 僕は20組目なので、そろそろ喉でも潤して声を出やすくさせないとな… そう思い、リュックの中から飲み物を取り出そうと手をいれると、ビンのような感触がした 僕はビンの飲み物は買っていなく、ビンを取り出すと、それはあいつからもらった大量の睡眠薬だった もともと僕は気付いていたのかもしれない… なぜ両想いだった彼女と別れてまで、必死にお笑いだけに専念していたのか… なぜバイトもせずに親の仕送りだけで一人暮らしをしていたのか… なぜしょっちゅう風邪で休むのか… なぜ事故で死んだ顔も知らない生徒の死に、あそこまで泣いていたのか… なぜ医者を目指していた頭のいいあいつが、高校へ行かずに医者の夢を中学の地点で諦めてしまったのか… この大量の睡眠薬も、いつでも死ねる保険があるから安心して後ろを見ずにガムシャラにお笑いができる…そんな嘘たぶん始めからわかってたんだ ただ単に迫り来る死の恐怖に怯えて眠れなかっただけだなんてきっと僕は心のどこかでわかっていたんだ… MCが終わり、16組目のネタが始まった 僕は近くにあったゴミ箱に睡眠薬を少しだけ叩きつけるように投げ捨て、舞台へと向かった… セリフを頭の中で確認する… あいつの遺言と僕のネタが混ざりあったネタを… 僕はピンだけどピンではないんだ… これが、僕がピン芸人として旅立つまでのプロローグ 19組目のネタ見せが終わり、僕は舞台へと向かった… なんとなくだけど、この舞台の光が、少しだけ希望の光に思えたんだ…      
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