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『そんな――――』
こう言ったが次の言葉に詰まった。美羽の表情が一瞬、違った気がしたが二度見したらそうでもなくて、ちょっと安心して椅子に座る。
『……林檎、だいぶ季節外れだけど』
林檎を渡すと、何も言わずにただ受け取った。受け取った時に、腕が見えて一瞬びっくりしてしまった。
――細すぎる腕。白く血管が丸見えであまりにもリアルだった。林檎なんて持てるのかと心配になるほど。
『長谷川さん、まだあたしが死ぬこと信じてないでしょう?』
『え?いや、そんな――――っつ』
夢のことが甦って軽く、頭が痛くなった。平然を装うが、多分外見に動揺は丸見えだろうなと思った。美羽は笑顔で
『いいんです。……みんなそうだと思いますもん。あたしだって、こんな風に元気に話してるわけだし』
『死ぬことは嫌じゃない?』
『多少怖いけど、裕平も経験してることだし、みんな経験するし……。重い心臓病って分かってたから前々から覚悟はしてました』
裕平という言葉に少し心が動いたが、あまりにも冷静で言葉を失った。唖然としてると目が合って、クスッと笑われた。
『長谷川さん、そんな顔しないで下さい。あたしはまだ生きてます』
まだ。……まだ。
『美羽っ』
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