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いきなり大きい声がして、俺と美羽は扉の方を見ると、バッグを持ってコートを着た美羽の母親がいた。
『お母さん……』
『美羽――あ、あなたっ……』
血の気の引いた顔をして、美羽を見つめる。その目は、潤んで充血していた。美羽の溜め息が聞こえてその場が凍り付いた。
『美羽、いつから――いつから……?』俺は静かに椅子から立ち上がって、横に退いた。こっちに走り寄り、美羽の手を掴む。震えながら『ねえ、誰から聞いたの?』
『お母さん……』
『違うわ、中島先生から聞いたでしょう?手術をしないのは、――大丈夫だからって』
極端に、【大丈夫だからって】の部分で声のトーンがかなり下がった。嘘をつくのが辛いのか。
『あなたは助かるから……ねっ?これはほんと――』
『お母さん、もうやめて』
美羽の低い声に俺と美羽の母親は驚いた。息を飲む。美羽の母親は黙り込んだ。
『いいの。お母さん……嘘つくのは一番嫌ってたでしょう?』
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