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結局その日は、俺は静かにその場を後にした。美羽に死ぬと告げられた時の俺の辛さより美羽の母親はどれだけ辛かったのだろうか。多分、俺なんて比べ物にならなかったんだろうけど。ジュースの入ったグラスをじっと見つめてそう思ってると、
『日向』
『え?』
『何飲まないで眺めてんだよ?』孝志が眉間に皺を寄せてそう言いグラスを指差し俺を凝視した。『氷が溶けてまずくなる』
確かにグラスが来た当時より氷のサイズは小さくなった気がした。一気に三口ほど飲んだ。まだ大丈夫、飲める。
『美羽はどうなったんだ?まだ元気なのか?』
『ん――――』言葉に詰まる。
【あたし、もうすぐ死ぬんです】
『……元気そうだよ』
『退院する見込みは?』
『まだ見込みはないみたいだ』
縦に並んでいた氷がジュースの中で崩れてグラスに当たり、カランと音がした。
『もう、半年くらい経ったな』
『あぁ――……』
時間は止めたくても止まらないんだな、なんて言葉が出そうになってそれをやめた。今更何でそんなことを考えるんだ。孝志にも変に思われるだけだろう。俺は横にあった掛け時計をじっと見つめた。
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