序章

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「僕が苦手なあの教科で赤点とらずに済んだのは総統閣下と……紫の上のお蔭です!」 力強くそう断言した社員10に、周りからは喝采と野次が飛んだ。 「おめでとう、10っ!」 「やったねっ」 「お前紫萌えかよ、このロリコンが~」 「俺はどちらかったら藤派なんだよなぁ」 「紫と藤はあの小説の二大メインヒロインっ!」 「サブヒロインではやはり明石タンか?」 「ヤンデレ六条、ブサキャラの赤っ鼻も捨てがたい魅力が……」 彼等が読んだのは古典「源氏物語」では無く、あくまでも萌え小説。 主人公・光源氏は最初から自分の名前に脳内変換。 ギャルゲやらエロゲではお馴染みの手法だ。 ……かくして、今学期の中間テスト、古文の平均点はKKK史上最も高い成績を収める事になった。 苦しいテスト期間が終わって浮かれる社員達、だが総統と副総統だけは何やら沈痛な雰囲気を漂わせている。 「諸君、暫し静粛にしてもらえないだろうか」 副総統の呼び掛けに、社員達は再び気を付けの体勢に戻る。 ため息を一つ吐き、重々しく副総統は口を開いた。 「大変、重大な報告を君達にしなくてはならない」 「……副総統、良いんだ。やはりこの件は私から言うべきだろう」 「いえ、しかし閣下っ!」 「いいんだ、私が、言う」 狼狽する副総統。 周りの社員達は何事かと固唾を飲みそのやり取りを見守る。 一同の前に一歩歩み出ると、総統は大声で叫んだ。 「我々の中に……古文以外、現国現社数Ⅱ英Ⅱ物理その他諸々。とにかく古文以外の教科で全て赤点をとった馬鹿野郎が、居るっ!」 「え、ええええっ!?」 社員一同は、お気の毒気に呻いた。
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