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須走口
午後5時12分
牡丹雪のような大粒の灰が絶え間なく降り注いでいた。
愛子は、その光景を放心しきった表情で見つめていた。
――せめて、死ぬ前に健一の顔を見たかった。眼鏡が似合わず、顔は良いとは言い難い。しかし、日本の、世界の火山をこよなく愛し、自分とかなり気があった。
まあ、自分の一番好きな山で死ねるならそれでいいか……。そう思っていると、爆発音と轟音の間に、微かだが車のエンジン音が聞こえてきた。
――幻聴かと最初は思った。しかし、その音はだんだん大きく、はっきりと聞こえてきた。
愛子は、ゆっくりと立ち上がって、その音がする方を見た。
一台の車が走ってくる。だんだん近付くにつれ、運転手がはっきりと見えてきた。
――その運転手は、武田だった。武田は、「愛子ー!無事かー!」と叫びながら、車を運転している。
キッ、と音を立てて車は止まった。勢い良く車のドアが開かれ、中から武田が飛び出す。
「健一!」
大声で、愛子は叫んだ。
「愛子!」
武田もそう叫ぶ。
二人は、抱き合った。そして、何度もキスをした。その時間だけが、噴火の轟音も聞こえなくなった。
愛子は大声で泣いた。目の近くに溜まった火山灰を涙が流し落とす。
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