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首相官邸
午後6時23分
「火砕流です!」
中谷が大声で叫ぶ。富士山7合目付近に発生した溶岩ドームが炸裂し、巨大な――あの雲仙普賢岳の火砕流より遥かに大きな――火砕流が発生したのだった。
「付近の住民の避難は!?」
橋本は、大声で怒鳴ったが、皆陸上自衛隊のヘリコプターから送られてくる火砕流の映像に見入ってしまって、誰も答える者はいなかった。
陸上自衛隊富士学校
午後6時21分
噴火してから、ここ――陸上自衛隊富士学校は大粒の火山灰の影響で暗闇に包まれていた。
一寸先も見えない、とはこのことだな。富士学校所属の陸上自衛隊隊員、鈴木平(すずきたいら)一等陸尉は、そう思った。
灰が口や鼻に入って、ずっと咳ばかりしている。目は涙が止まらず、なによりも周囲に立ち込める硫黄の臭いがたまらなかった。
そして、鈴木は確かに聞いた。闇の奥――富士山の方向から、地響きがしてくるのだ。
もし、周囲が火山灰に包まれておらず、まだ日が高い昼間だったら、押し寄せてくる大火砕流のスペクタクルが見えたのだが、その火砕流に巻き込まれる前にサージ(火砕流本体の前に襲ってくる爆風のような熱風)に焼かれて、死んだ。他の隊員たちも、同じような運命となった。
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