一章

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   ふと、女性は後方からヒソヒソという幾人かの小声と、同数の奇異の念が込められた視線が向けられている事に気づいた。だが女性は別に気にする風でもなく、静かに瞳を開けた。 (着くまでまだ時間あるし、もう一眠りしよっかな……?)    そう決めると女性は自室に戻る為に踵を返した。直後、辺りが一斉にどよめき、また一瞬後には重苦しい沈黙が訪れた。前より一層強くなった奇異の視線が女性に集中する。その主たちのなかには彼女と眼が合っただけで勢い良くそっぽを向いた者も居た(特に男性)。そしてそれは彼女が自室に戻るまで続いたが、当の本人は全く気にしていない様子だった。どうもいつもの事らしい。  何故、この女性はこんなにも注目の的になっているのだろうか? それは以下の三つに集約される。  まず一つ目は彼女の外見。    たおやかな肢体に、腰にまで届く紅よりなお深い深紅の長髪。着ている服は上は東国の衣装で、色は髪と同じ深紅。下はベージュのロングパンツに同色の半套を腰に巻いている。これだけでも充分目立つがそれに加え、大の大人でも振れないような大剣と、それとは対象的な、誰にでも扱えそうな小剣を一本ずつ腰に差していた。
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